今話題のヘリコバクターピロリ菌。
日本人の約6千万人が感染しています。
最近、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の原因として、ヘリコバクターピロリ菌が注目されています。
この菌は、胃・十二指腸の粘膜に寄生し、慢性胃炎の主な原因となっています。
また胃癌との関連も指摘されています。
日本人の約半数以上が感染していると報告されています。
当クリニックでも、胃カメラを受けた方の53.7%が、ピロリ菌陽性でした。
慢性胃炎のため、胃痛・胃もたれなどの症状が続く方、 ここ数年以内に胃潰瘍・十二指腸潰瘍と診断された方は、症状や潰瘍の再発を予防するためピロリ菌を取り除く除菌療法が必要です。
除菌療法に成功すると、潰瘍の再発の 心配はほとんどなくなり、快適な生活がおくれます。
潰瘍で悩んでいる方、身近に胃癌や潰瘍の家族がいらっしゃる方は、ぜひご相談下さい。
ピロリ菌に感染した方のほとんどが、慢性胃炎になります
慢性胃炎の状態では、症状が全くない人と、胃の痛み・もたれ感・不快感等の症状が現われる人があります。一部の方は、感染時に急性胃粘膜病変(AGML)という急性胃炎をおこし、激しい痛みをともなうこともあります。
ピロリ菌に感染した人のうち、2~3%の方は胃潰瘍・十二指腸潰瘍になります。潰瘍の原因は、ピロリ菌だけではなくストレス・体質などの複数の要因が重なって発症に至ると考えられます。
一度潰瘍になると、くり返し潰瘍をおこすことが多いようです。
こういう場合は、除菌療法の適応になります。
慢性胃炎の方で症状の無い場合は、当面は様子をみていいと思います。ただし、胃癌検診は定期的に受けてください。
京都府立医科大学の今村重義先生らは、ピロリ菌を運んでいるのはゴキブリの可能性もあると報告されています。 雑菌をなくしたゴキブリに、ピロリ菌を含んだ食品を食べさせたところ、それから数日間ゴキブリの糞に、ピロリ菌と菌体の一部の排泄が続いたとの結果です。
特に感染しやすい小さいお子さんがいらっしゃる家庭では、台所の清潔とゴキブリの駆除が大切です。生ものをあつかうときは、特に気をつけて食品と食器を水道水と洗剤でよく洗うことが必要です。ゴキブリの糞がみつかったときは、近くの食器は洗い直しゴキブリの駆除をしたほうがよいと思います。
1994年WHO(世界保健機構)の国際癌研究機関(IARC)が、ピロリ菌を確実な発癌因子に指定しました。 もちろん感染者のすべてが癌になるわけではありません。多くの感染者は、無症状のまま慢性胃炎でとどまります。 胃がんは、幼少期にピロリ菌に感染し、その後の食生活などを通して、発癌物質に長期にわたって暴露されることで、 発生すると推定されます。
ピロリ菌と胃がんの関係 ---2001-09-15 (Sat)---
ピロリ菌に感染している人と陰性の人を、平均約8年間にわたって内視鏡検査で追跡した結果、「ピロリ菌感染者1246人中36人約2.9%に胃がんがみつかり、感染していない280人には胃がんが発生していなかった」という研究報告を広島県の呉共済病院の上村直実先生が米医学誌に発表されました。今後除菌療法を勧めるうえで大変重要な研究報告です。
この報告を参考に除菌治療の対象を考えていきたいと思います。
除菌療法は、ピロリ菌を退治するため抗生物質を使います。 そのため、抗生物質をむやみに使うと耐性菌(抗生物質の効かない菌)をつくる可能性があります。 すでに、抗生物質の一部に耐性をもったピロリ菌が出現しています。 こういった理由のため、除菌療法は以下のピロリ菌陽性の方を、原則として適応としています。
1. 胃・十二指腸潰瘍のある方、以前に潰瘍になったことのある方
2. 潰瘍はないが、胃炎があり、その症状の強い方
3. 胃がんで手術または内視鏡治療を受け、胃の残っている方
4. 一部のリンパ系腫瘍の方
抗生物質を中心に、数種類の薬を併用して服用します。
副作用がでる場合もあり、必ず医師の指導を受けながら治療して下さい。
代表的な薬剤の組み合わせは、3種類です。 これらの治療薬に加えて、ピロリ菌の生存条件を悪化させる、胃粘膜保護剤を併用して治療するのが一般的です。
ピロリ菌の治療期間は、1週間法と2週間法を行っている施設が大部分です。潰瘍などがある場合、その治療期間が別にかかります。
当院では、原則として1週間法で治療を行っています。
胃潰瘍または十二指腸潰瘍の方に対するピロリ菌の除菌療法は保険適応になりました。
自己負担分は除菌治療だけに限ると3000~6000円位になります。
ピロリ菌除菌で胃ガン予防
2003年9月の日本癌学会で、ピロリ菌の除菌により胃癌の発生が減るという報告がありました。
5年以上の経過観察で、ピロリ菌感染者のうち除菌治療をうけた人での胃ガンの発生は1.1%であったのに対し除菌していない人の胃ガン発生は3.5%で、ピロリ菌除菌によって胃ガンの発生が三分の一に減少していることが明らかになりました。
除菌すると胃炎がおさまり、胃粘膜の荒れがよくなることは内視鏡でも確認できますが、除菌はやはり胃ガン予防に効果があるようです。
除菌にあたっては、抗生物質を使いますので、腸の中の善玉菌も影響をうけて約半数の方に下痢がおこります。 下痢の程度は様々で、軟便程度から、水様便までおこる可能性があります。残りの半数の方は、薬を飲んでも全く副作用はみられません。
問題となる副作用は
1. ペニシリンアレルギー
薬によると思われる皮膚の発疹が見られた場合は、中止の対象です。
2. 抗生物質による出血性大腸炎
下痢がひどくなって血便が見られた場合、腸の悪玉菌が増殖した可能性があり、治療を中断し大腸炎の治療が必要です。
ピロリ菌をめぐる今後の課題(現在研究者の間で指摘されている問題点)
1. 除菌療法後に胸やけなどの、逆流性食道炎をひき起こし易いとの報告があります。
2. 除菌後に、ピロリ菌が原因でない胃癌と食道腺癌が、少し増える危険性を指摘した報告もあります。
3. 感染経路がまだよくわかっていません。
水道以外の消毒されてない水と、よく洗ってない生の食品、食べ物の口移しが危険です。ゴキブリが菌を運ぶことがあり、退治することが有効です。
4. 抗生物質の効かない耐性ピロリ菌の出現。
5. ピロリ菌の除菌と禁煙
ピロリ菌の除菌にはタバコの禁煙または節煙が必要です。 タバコを吸いながら除菌治療を受けると約50%の方が除菌に失敗しています。
ピロリ菌をめぐる最新情報 (更新日2005年11月23日)
1. 蕁麻疹が、ピロリ除菌により65%~80%の方で 改善したとの報告があります。
2. 血小板減少性紫斑病が、ピロリ除菌により改善されることが注目されています。
3. ピロリ菌感染者の花粉症は15%なのに対し、感染していない方では52%であったと 2005年10月のDDW(消化器病学会)で報告があり 注目されています。
4. ピロリ除菌後、10%の方に食道に胃酸が逆流する症状がでるとされています。
5. 便中のピロリ抗原をどこでも簡単に同定できる検査キットが、わかもと製薬製造で日本BD社より販売されています。
ピロリ菌の判定に呼気試験を始めました。 以下の方法で比較的簡単にピロリ菌の有無が判定できるようになりました。
1. 前日の夕食後から絶食して下さい。(9時間程度)
2. 呼気採取パックに (1) ~ (3) の順に呼気を吹き込みます。
(1) 呼気パックの空気を抜く
(2) 2~3回呼気パックをふくらませる
(3) パックをふくらませて、ふたをしめる
3. 容器にはいった13C-尿素溶液を飲みます。
(100mgを100mlに溶いた液) *飲んだすぐあと、2~3回うがいをしてください。
4. 飲んだあと、左側臥位になって5分待ちます。
その後座って12~3分待ちます。
5. 飲んでから20分後、新しいパックへ (1) ~ (3) の順に呼気をふきこみます。
13C-尿素液は安全な試薬を用いていますので、 清潔で危険はありません。 13Cとは、質量13の放射線がでない炭素原子です。 もともと、自然界に少量ある炭素です。 この検査は除菌療法後、6~8週目以降に行います。
ピロリ菌についての研究が進むにつれて、ピロリ菌を減らす食品があることが明らかになってきました。
日本酒の製造過程で勇心酒造のライスパワー101という成分にピロリ菌を抑える作用があることがわかりました。(バリアケア101という商品です。) 更新2005年11月23日
1. ココアの脂肪成分が、ピロリ菌を減少させる。
ココアの遊離脂肪酸にピロリ菌を死滅させる作用があることが、食品メーカーと大学の協同共同研究で判明しました。 ピロリ菌を減少させる機能を強化したココアが販売されています。 商品名は、innerFFAココア(森永製菓)です。
2. ピロリ菌を減らすヨーグルト
明治乳業から、ピロリ菌を減らすヨーグルトが発売されています。 商品名は、プロビオヨーグルトLG21です。LG21というピロリ菌を減らす乳酸菌が入っています。 プレーンタイプとドリンクタイプがあります。
3. 梅肉エキスにもピロリ菌殺菌効果
滋賀県立大学の研究で、梅肉エキスにも強力なピロリ菌殺菌効果があることが明らかになりました。 健康食品として以前からありましたが、新しい効果として抗ピロリ菌作用が発見されました。
4. ブロッコリーの新芽にも効果
米国での研究で、ブロッコリーの新芽(スプラウト)にもピロリ菌の減少効果があることがわかりました。最近は、カイワレ大根などと並んで野菜売り場で販売されています。
5. はちみつの一種にピロリ菌抑制効果
ニュージーランド産のはちみつ「マヌカハニー」のなかで特に抗菌力の強い「アクティブマヌカハニー」は傷の化膿を防ぎ、ピロリ菌抑制効果もあることがわかりました。
6. ピロリ菌を減らすガム
地中海のギリシア・ヒオス島に自生するマスティクの樹液を含んだガムにピロリ菌を減らし、潰瘍を治す作用のあることが米国の医学誌に報告されました。大手デパートの健康食品売り場で販売しています。
7. 抗ピロリ菌作用がある他の食品
ほかに、わさびの葉、シナモン、クランベリー(こけもも)、海草類などにも抗ピロリ菌作用が発見されています。